─ DIABLOU And DIABLOUEXPANSION ─

◆第3話 The Cairn Stones (ケルン・ストーン)

―Rogue Encampment(ローグ野営地)―

Akaraから話があると呼び出されたのは、まだ日も昇りかけの明け方だった。
いつも長話の彼女だが、今日はなぜか口数が少なく、何か言おうとしては言葉を濁す。
CELICAが話を促すが、わたしはあまり聞く気にはなれない。
トリストラム…彼女の口からその名を聞いたときから、不安で胸が締め付けられる。
そしてAkaraは、わたしたちに告げた。
「トリストラムが…壊滅しました…」
わたしは一瞬、息を飲んだ。
恐怖と絶望の支配から開放された町。
その町が、壊滅した。
「…いったい…なぜ?」
その疑問に、Akaraは鎮痛の面持ちで答える。
そしてその答えは…絶望するに十分なものだった…
「………本当…なの?」
自分でも声が震えているのがわかる。
否定して欲しかった。
だが、Akaraは無言で頷く。
その表情にいつもの笑顔は無い。
「私も…信じたくはありませんでした。
 ですが、私たちが導き出した答えは間違いではなかったのです」
以前、Akaraは言った。
ディアブロが復活したのではないか…と。
そしてそれは、事実だった…


―Dark Wood(暗黒の森)―

「ほんとにいいの? きっと辛い思いするよ?」
気を使ってCELICAが声をかけてくれる。
「ありがとう…でも、大丈夫。
 Harukaとのことで、わたし決めたの。
 どんなに辛いことがあっても、絶対逃げないって…」
「…なんか…かなりくさいセリフ。
 でも、その気持ちがあれば大丈夫ね」

わたし達は今、暗黒の森にあるといわれるイニファスの樹を探している。
その樹の皮にケルン・ストーンを発動させるルーン文字が示されている。
ケルン・ストーンとは発動させた者が行きたいと願う場所へのポータルを開く魔法の遺跡。
ただし、開く者が過去行ったことのある場所へしかポータルを開くことができない。
そして、わたし達が向かう先はトリストラム。
伝えられた情報によると、壊滅したトリストラムに一人の老人が捕らえられ、監禁させられているという。
なぜその老人だけが捕らえられているのかは判らない。
その話を聞いたとき、わたしはあの町で会った一人の老人を思い出した。
名はCain、かなりの高齢だが地下迷宮で見つけた魔法のアイテムを鑑定してくれるかなり高名な賢者だと記憶している。
その捕らえられた老人がCainなのかどうかはわからない。
それでもわたしは捕らえられた老人の救出を申し出た。
だが、トリストラムは遠く、早馬を使ったとしても一月はかかる。
そこでAkaraから提案されたのが、ケルン・ストーンだった。

暗黒の森とは、その名の通り日の光も通さないほどうっそうと生い茂った森。
昼尚暗い森の中で、わたし達は一本の樹を目の前にしていた。
その樹はひときわ大きく、内側から滲み出るように光を放っているように見える。
「これ…ですか、イニファスの樹は…」
「どこかにルーン文字が刻まれてるはずだよ。
 それを洋紙に写し取るんだ。一字一句間違わずにね」
ルーン文字は根に近いところに刻まれていた。
かなり古くかすれているところもあったが、何とか書き写すことに成功する。
ルーン文字の解読はAkaraがしてくれる。
わたし達はタウン・ポータルを開き、野営地へと戻った。


―Rogue Encampment(ローグ野営地)―

「お待たせしました。解読が終わりました」
Akaraから手渡された洋紙には、5つの記号が順に描かれていた。
「石の野原にケルン・ストーンと呼ばれる5つの石柱があります。
 石柱にはそれぞれ記号が記されているはずです。
 そこに書かれている順に石を触っていけば、ポータルは開きます。
 それから、石に触れるとき、トリストラムの風景を強く思い描いてください。
 タウン・ポータルやウェイ・ポイントを使うときと同じ要領ですね」
その洋紙を手に、石の野原へと向かう。


―Stony Field(石の野原)―

「あったわよ、これがケルン・ストーンね?」
「5つの石柱、それぞれに記号が刻まれています。間違いないですね」
「Reina」
「…やってみる」
思い浮かべるのはトリストラムとそこに住む人々…
壊れた武器を修理してくれたGriswold…
一つ目の石柱に手を触れる。
記号が青白い光を放ち、低い音が鳴り出す。
色々な魔法を教えてくれたAdria…
二つ目の石柱に触れる。
一つ目と同じく、青白い光と、低い音が鳴る。
傷ついた身体を癒してくれたPepin…
三つ目。
低い音はそれぞれがかすかに違う音階を奏でている。
お金にがめつい、ちょっと不幸なWirt…
四つ目。
青白い光が一層強さを増し、音はきれいな和音を奏でる。
そして、酒場のウェイトレス、わたしの親友Eimy…
五つ目の石柱に触れた途端、石柱は激しい光を放ち、天空より稲妻が落ちる。
「キャッ!」
まじかに落ちた稲妻の衝撃に弾き飛ばされ、わたしは石柱の外に弾き出される。
石柱に落ちた5本の稲妻は、石柱の間を駆け抜け、鮮やかに五法星を描く。
その中心に現れたのは赤い色をしたポータルだった。
「成功…ね」
「えぇ、多分」
「大丈夫…ですか?」
Layが気遣ってくれるのは、落雷に弾き飛ばされたこと、それともトリストラムの悲劇のこと…
「何とかね。
 さあ、行きましょう。トリストラムへ」
稲妻がおさまった後、わたし達は赤いポータルへと足を踏み入れた。


―Tristram(トリストラム)―

懐かしい風が吹く。
北の大陸独特の冷たく乾いた風。
そして、血生臭い死臭。
「ここが…トリストラム…」
降り立ったのは町の郊外、小高い丘の下にトリストラムの町並みが広がる。
とはいっても、以前来たときとその様子はまるで違っていた。
たしかに以前も閑散としていたが、人の住む気配はあった。
だが、今は違う。
建物はすべて破壊され、田畑は焼かれ、木々は燃え尽きている。
「これは…あまりにひどい…」
あたりを警戒しながら、わたし達は町へと入っていく。
そこはまさに…地獄だった。
路上に放置されたままの亡骸。
それは逃げ惑い、助けを求めながら死んでいった人々。
戦いを挑み、敗れ去った冒険者。
わたしは悲しみをこらえ、怒りを抑えて歩き続ける。
ふと、一軒の建物の前でその歩みが止まった。
地面に落ちている看板には、酒場の名が刻まれている。
「っ!?」
壊れた窓の向こう側に人影を見た気がした。
そしてその姿が、彼女の面影と重なる。
「Eimy!!」
わたしはその名を叫び、駆け出した。
「Reina、待ちな!!」
CELICAの止める声が聞こえた気がした。
だが、わたしは迷わず酒場に飛び込む。
扉は吹き飛ばされ、中は砕かれたテーブルやイスが散乱している。
壁もそこらじゅう穴だらけで屋根も半分以上崩れていた。
あたりを見回すが、人影はどこにも無い。
「Eimy…?」
カウンターの奥、厨房の方から物音が聞こえる。
わたしは倒れかけた柱の下をくぐり、カウンターを飛び越えて奥へと続く扉を抜けた。

厨房は薄暗く、雨戸の隙間から差すわずかな光が荒れ果てた厨房を浮かび上がらせていた。
そして、物陰に浮かぶ何人もの人影があった。
「!? みんな…無事…なの?」
わたしの声に、反応は返ってこなかった。
その代わり、彼らはゆっくりとした歩みで、わたしの方に近づいてくる。
隙間から漏れる光に彼らの顔が照らし出された。
「…!」
そして、皆見覚えのある顔だった。
しかし、彼らの顔には生気が無く、冥い瞳には何も映ってはい。
彼らはすでに、ゾンビと化していた…
「………な ぜ…、なぜ…いつも…こうなの…」
呆然と立ち尽くすわたしに、ゾンビの群れが襲いかかってきた………

その愚鈍な動きからは想像できないほどの衝撃が、わたしの体を吹き飛ばす。
雨戸を突き破り路上に放り出されたわたしは、受身をとることすらできず地面を転がる。
全身をバラバラになったような痛みが襲う。
「Reina!!」
駆けつけたCELICAに抱き起こされ、ライフ・ポーションを強引に飲まされる。
「Reina、大丈夫?」
ゆっくりと、体の痛みが引いていく。
「えぇ…ありがとう」
「しばらく、休んでな。
 ここはあたしたちが…」
「………ううん、いい。
 こうなることは解ってたから。
 辛いけど、辛いからこそ、わたしがやらないといけないの」
わたしは立ち上がり、弓を構え矢を番えた。
壊れた壁の隙間からゾロゾロと出てくるゾンビの群れにその矢先を向ける。
しかしその射線を、鋼の鎧を纏った背中が塞いだ。
「解っちゃいねぇ…
 あんた、なんも解っちゃいねぇんだよっ!!」
「Lay…?」
わたしの前に立ち塞がったのは、確かにLayだった。
「辛いことは、自分一人で背負うってか?
 やっぱ、なんも解っちゃいねぇ」
そう言うとLayはウォー・ハンマーを手に、ゾンビの群れへと飛び込んでいった。
それに並ぶようにjunも斬り込んでいく。
「Lay、キレちゃってるみたいね…
 そーとー癇に障ったみたいだわ、あれは」
Layは何に怒っているの?
わたしが、何も解っていない…?
「あ…あの…」
「ま、聖職者ってだけあって、死人を冒涜するようなことは許せないんだろうけど。
 半分はあんたの所為でもあるんだよ、Reina」
「わたしの?」
「そ、辛いことから逃げるなとは言ったけど、何もかも自分ひとりで全部背負ってちゃ、仲間の意味って無いんじゃない?
 戦うだけが仲間じゃない。辛いとき、苦しいとき、頼りになるのが仲間なんだよ。
 その仲間に頼りにしてもらえなくて、怒ってるんだよ。Layもjunも、もちろんあたしもね」
CELICAはそう言ってわたしに微笑みかけてくれた。
「そーゆーわけだから、ここはあたしたちに任せておきな…って、その必要もなさそうだけど」
すでに数十体のゾンビを彼ら2人で倒していた。
しかし、次から次へと現れるゾンビは、いつのまにかその倍以上の数に増えていた。
「けっ、いい加減しつけーんだよ!
 こーなりゃまとめて成仏させてやるぜ。jun、下がってな!」
肯き、大きく跳躍して飛び退ったjunに対し、Layはゾンビの真っ只中に駆け込んでいった。
「お姉さま方、援護頼むぜ!」
Layの声にCELICAはすばやく反応し、呪文を唱え始める。
「万能なるマナよ…凍てつく氷塊よ、動あるものに全きの静寂を…
 Cold Spells! Glacial Spike!
わずかに遅れて、わたしも矢に力を込める。
「氷の精霊よ、わが刃に宿りてその力解き放て!
 Freezing Arow!
CELICAの放った氷柱は、Layの右手側のゾンビに当たり、四散すると周囲のゾンビも巻き込みその動きを止めた。
そして、冷気を込めた矢は、Layの左手側のゾンビに当たり、同じく四散して周囲のゾンビを凍らせる。
Layの周りのすべてのゾンビが凍りついたのを合図に、Layはウォー・ハンマーを胸に構え呪文を唱え始めた。
「戦いと正義を司りし神よ…不浄なるものに制裁と救いの鉄槌を!」
頭上に掲げられたウォー・ハンマーが虹色に輝きだす。
「食らいな!Blessed Hammerrrrrrrr!
いくつもの虹色のハンマーが、Layを中心に螺旋を描いて飛び乱れる。
巻き込まれたゾンビたちは、粉々に砕け散っていった。


―Rogue Encampment(ローグ野営地)―

「それにしても、Layってキレると性格変わるのね。
 ワイルドで、ちょっとカッコよかったかも」
ウォー・ハンマーの手入れをしているLayの横顔を見つめながら、CELICAがつぶやく。
「え? キレるってなんのことです?」
「覚えて…ないのね…」
「トリストラムへ行ったとき、途中でちょっと眩暈がしたんですが…まぁ、良くあることですから。
 それより、Reinaさん、今回も大変でしたね。
 辛いでしょうけど、がんばってください」
「えぇ、ありがとう。
 でも大丈夫、Layのおかげで、わたしの辛さは4分の1になったから」
「え? 私なにかしましたっけ?」
「…なんだか、ちょっと不安かも…」
いつになく賑やかなテントの隅っこで、今回活躍の場が無かったjunが一人寂しく剣を研いでいた………


「あの、おじゃましてよろしいですか?」
テントに顔を覗かせたのはAkaraだった。
「Akaraさん、どうかしましたか?」
「いえ、大したことではないのですが…
 トリストラムで捕らえられていたという方、どうなったのかと思いまして」
「………あっ!」


―Tristram(トリストラム)―

町の中心の広場にあった噴水も、今はもう枯れ果て打ち砕かれている。
その噴水の隣に立てられた柱。
その柱の上に吊るされた檻の中から、しわがれた老人の声が聞こえる。
「ど…どなたか、助けてくだされ〜………」
彼が助け出されるのは、もう少し先のことであった………


(Glacial Spike(グラシアル・スパイク)…ソーサレスの扱う氷系魔術の魔法。
 氷柱を前方に飛ばし、当たった敵とその周囲を凍結させる効果をもつ。
 凍結した相手は一定時間まったく動けなくなるので、主力技や援護として申し分ない)
(Freezing Arow(フリージング・アロー)…アマゾンの使う弓スキルで、当たった敵とその周囲の敵を凍結せることが出来る。
 効果はソーサレスのグラシアル・スパイクと同じだが、ピアスを覚えていると貫通するので、その効果はかなり大きくなる)
(Blessed Hammer(ブレスド・ハンマー)…パラディンの使うコンバットスキル。
 連打できる上、ダメージも高い(アンデッドには1.5倍)ので、Lvを上げるとかなり強力になる。
 しかし、なんと言ってもその名前が某スーパーロボットの必殺技似なのがいい(笑))





 00/09/03 02:20 Nightmare Act1 [The Cairn Stones]
Party…Reina-Kararu(R)、CELICA(S)、Layhawk(P)、jun(B)




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